チベットの光 (22) ラマの耕作【伝統文化】

(Cea/Creative Commons)
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 このとき、ウェンシーはロンツァ地方の近くまで来ていた。彼は、道行く人々にマルバ尊師がどこに住んでいるのかを聞いて回ったが、予想に反してこの名を知っている人は少なかった。

 彼は歩き続けたが、誰一人として見たという人はいなかった。ロツアウ谷にさしかかったとき、ある人に聞いた。「すみませんが、マルバ尊師がどこに住んでいるか知らないでしょうか?」

 「この近くにマルバという人がいるのは知っているよ。だが、そんな大先生だとは聞いたことがないねぇ」

 「あなたは、ロツアウ谷を知っていますか?」

 「あそこはもうそんなに遠くないよ」。彼は山間の谷を指さして言った。「すぐそこだよ」

 「そこにどんな人が住んでいるのですか?」ウェンシーはまた尋ねた。

 「マルバという人が住んでいるよ」

 ウェンシーはすぐにそれが彼が探しているマルバ尊師だということが分かり、内心わくわくした。彼は歩きながら、何度も道を聞き直しては再確認した。しばらくすると、彼は羊を放牧している人たちに出会った。

 「すみません。この辺りにマルバ尊師という方が住んでいませんか?」ウェンシーが尋ねた。

 「知らんねぇ」。その中の老人が答えた。

 このとき、放牧している人たちの中に、見目麗しく、可愛らしい子供が綺麗な衣服をまとい、利発そうにウェンシーに言った。「ああ!あなたの言っている人は、わたしのお父ちゃんじゃないの?お父ちゃんは、家財を全部売って、それを金子に換えてインドに行ったよ。帰ってきたときには一文無しになっていたけど、代わりに古ぼけたお経をいっぱい持ってきたんだ。彼は、畑なんかやらない人だったのに、今日は何の風の吹き回しなのか、畑に出て行ったよ」

 「この子の言っている人がマルバ尊師に違いない」。ウェンシーはそう思ったが、なぜそのような大先生が畑を耕しているのかが疑問だった。彼は思いを巡らしながら歩いていたが、歩いているうちに、道端で体のたくましいラマが畑を耕しているのに出くわした。

 ウェンシーはそのラマを一目見ると、心中に言い知れない喜悦を感じた。一時、彼は世間の一切を忘れ、ほっとしていたが、すぐさま我に返った。すぐに彼はそのラマの元に走り寄って尋ねた。「この辺りに、マルバ尊師という方が住んでいませんか?」

 このラマは、ドングリのような大きな眼をかっと見開き、何も言わずにウェンシーを睨み付けると、頭のてっぺんから足先までなめまわすようにジロジロと見て、ウェンシー全体を透徹してみているかのようであった。奇怪なことに、彼のこのような無礼な態度をウェンシーは怪しいとも思わず、また不快でもなく、却って当然であるかのように感じていた。

 ラマがしばらくして口を開いた。「君は誰じゃ?彼を探し出して、何をしようというのじゃ?」

 「私は大きな罪を犯した大悪人です。マルバ尊師にお会いして、正法を求めるのです」とウェンシーが答えた。

 「しばらくしたら、君を彼の元へと連れて行ってあげよう。それまで、まずは畑を手伝ってくれたまえ」

 ラマは言い終えると、畑の縁に行き、地面の帽子を取り上げると、下の酒瓶を取り出した。それは、彼が畑をやる前にあらかじめ埋めておいたものであった。彼は、それを取り出し、少し口に含むと、「いい酒だ!」と讃嘆し、その酒瓶を下に置いて行ってしまった。

 (続く)

(翻訳編集・武蔵)

転載 大紀元 https://www.epochtimes.jp/p/2021/03/70328.html

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