チベットの光 (63) 兄妹の再会【伝統文化】

参考写真 (Raimond-Klavins / unsplash )

ある日、ミラレパの郷里で仏像を前に一年に一度の塑仏像大集会が催されるというので、妹のプダも郷里に戻って食を求めた。狩人の一群が、そこである歌を歌い、周りの人たちも拍手喝采し、聞く人を惚れ惚れとさせた。プダもやってきて、この歌詞を聴くと、嘆息を禁じえなかった。

 「この歌詞の境涯はなんて高いのかしら。この歌詞を作った人は、きっと活佛だわ」

 「ははは!」その中の狩人の一人が聞いて大笑いして言った。「わしには、この作者が活佛か凡人かは知らん。しかし、この歌はなぁ、おまえさんの唯一残された骸骨のような兄さんが、飢えて生きるか死ぬかという際に歌った歌なんだよ」

 「あんたたち、そんなこといわないでちょうだい!」プダは猟師たちが言っていることを聞いているうちに泣き出した。彼女は悲しみをこらえて言った。「父も母も早くに亡くなり、わたしたち兄妹は小さいころから大変に苦労しました。親友たちは、みな仇となって敵となり、最も頼りなる兄もここ数年は消息不明です。私も糊口を求める女になって、あなたたちは、まだこんな私を笑いものにしようといるわ」

 「泣く必要はないわ」ジェサイが法会でプダが泣いているのを見て言った。「プダさん、泣くことはないわよ。数年前、あなたのお兄さんが郷里に帰ってきたときに、私は彼に会ったの。私もこの歌はお兄さんが作った歌だと思う。あなたもすぐにフマパイの洞窟まで自ら足を運んで、彼らの言っていることが本当かどうか確かめてみることね」

 プダはこれを聞くと、それも道理に違いないと思い、恵んでもらった酒とツァンバをもって、フマパイの洞窟まで足を運んだ。

 彼女が洞窟の入り口から中を覗くと、中に何やら骸骨のような人影が見える。その骸骨は坐っており、骨と皮ばかりになって、皮膚は緑色、長々と伸びきった頭髪もまた緑色、見るからに人か幽霊かわからない様子であった。プダはそれを見ると、恐ろしくなって逃げ出そうとした刹那、猟師の言葉が思い起こされた。「あんたのお兄さんはもうすぐ飢え死にするよ」そう思うと、プダは勇気を奮い起こして声を掛けた、「あなたは人なの、それとも幽霊なの」

 「私は、ミラ・ウェンシーだ!」ミラレパは妹の声を聞くとびっくりして答えた。

 プダは、実の兄の声を聞くと、すぐに洞内に走りこみ、ミラレパの骨と皮ばかりになった両肘をはっしと掴むと、大声をあげて泣き出した。「お兄さん!お兄さん!」彼女は極度の心傷のため、これだけ言うと意識が眩んでしまった。

 ミラレパは、ここ数年生死不明だった妹を目前にして、感慨もひとしきりであったが、意識が混濁した妹を覚醒させるのは容易ではなかった。

 プダは覚醒してミラレパをみとめると、たまらず掌で彼の顔に触れ、泣き出して言った。「お兄ちゃん!お母さんは、あなたのことをずっと思い続けて死んでいったわ。残された私たちがどんなに苦しい日々を送ったか知っているの。私も村民に村八分にされて、その苦しみのために家を離れるしかなくて、いたるところで流浪しながら乞食をしたのよ。私もずっとお兄ちゃんのことを思ってきたわ、だってお兄ちゃんが生きているか死んでいるかわからなかったから。今、あなたにやっと会えたのに、こんなに変わり果てた姿になっていたなんて。わたしたちはなんて苦しい星の下に生まれた兄妹なのかしらね。この世で、わたしたち兄妹より悲惨な人たちがいるかしら」

 プダはここまで言うと、また大声で泣き始め、意識が遠退きそうなほどに、父母の名前を呼び始めた。ミラレパは、何とか手をつくして彼女の情緒を慰めようとしたが、だめだった。このとき、彼女の耳は何の話も受け付けなかった。そこで、彼は傷ついた妹に歌を歌って聞かせた。その歌は、自らの情況を妹に言ってきかせるものであった。 

(続く) 

(翻訳編集・武蔵)

転載 大紀元 https://www.epochtimes.jp/p/2021/05/72589.html

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