チベットの光 (40) 老婆の涙【伝統文化】

参考写真 ( Raimond Klavins / unsplash )

しばらくしないうちにウェンシーはノノバ尊者の身荘厳を携えて、荘厳な儀式に臨み、神聖な音楽が流れる中、皆が待ち受ける大殿へと進んだ。ウェンシーはアバ・ラマを礼拝した後、供養を献上した。アバ・ラマは身荘厳を頭に飾り付けると、涙を流しながら加持祈祷をし、彼を檀上の中央に据え、あわせて供養の品々を添えた。最後にウェンシーがもってきた手紙を読み、興奮してウェンシーに言った。

 「マルバ先生は、あなたに灌頂と口訣をさずけるよう手紙の中で私にいってきている。先生の命とあれば、君に法を伝えないわけにはいかないな。私は前に君がここに来て法を学ばないものかと思っていたが、先生が送ってよこしたのは、本当にいいことだね」

 ウェンシーは黙として何も語らなかった。彼は心から正法を求めていたのであって、マルバ師父が彼の嘘を寛大に許してくれることを願った。ウェンシーが沈思黙考していると、突如としてアバ・ラマが驚くべきことを言い始めた。

 「よろしい!怪力君。ヤラン・チャカン地方のことなのだが、ここからよく多くのラマが私の所に法を求めてやってきたものだ。しかし、タヤポ村にさしかかると、ここの人たちが彼らを襲って金品を奪うので、供養をなくして法を求めることができなかったのだ。それで、まず君が雹を降らせて彼らに警告を与えてくれないか、そうすれば法を伝えよう」

 ウェンシーはこれを聞くと心の中が真っ暗になった。私は実際罪深いものだ、どうしていく先々でこうも人を害さなくてはならないのだろうか。私はここに正法を求めてやってきたのであって、悪いことをにしにきたのではないのだ。しかし心が翻り…私はラマに法を求めてきた、したがってラマの話は聴くべきだ、もしラマの話を聴かなければ、当然のことながら法は伝えられない。もしまた雹を降らせたら、また悪いことをすることになる…では、いったいどうすればいいのか。ウェンシーのなかでは種々の思いがよぎったが、やるかたもなく、法を求めるために、ラマの要求を受け入れることとした。

 ウェンシーは、タヤポ村付近につくと、雹を降らせるマントラのできる所を探した。雹が降る段になると、それを避けるために、彼はとある老婆の家へと駆けこんだ。しばらくすると、どす黒い黒雲が天に広がり、またたくまに雷鳴が轟き、大粒の雹が降ってきた。突如、ウェンシーは老婆が天に向かって泣き叫んでいるのを耳にした。「ああ、天の神様よ、どうしてあなたは私の裸麦を押し流してしまうのですか?これ以降、わたしはどうやって暮らしていけばいいのですか?」

 ウェンシーはそれを見ると、心の中で耐えられなくなってきた…私はなんて罪深いものなのだろうか、人にこんなにも苦痛を与えるなんて!彼は心苦しく、堪らずに老婆に駆け寄り慌てて質問した。

 「おばあさん、あなたの畑はどんな様子ですか?」

 ウェンシーは、紙に畑の様子を描かせた。それは三角形の畑であった。

 「ちょっと鍋をお借りします」、ウェンシーはそういうと、何やらマントラを呟きながら、紙の上に鍋を伏せた。

 しばらくすると雹が止み、山の上から鉄砲水が溢れだし、雹で落とされていた麓の畑にある裸麦を一粒残らず押し流してしまった。しかし、老婆の畑だけは難を免れ、その他に甚大な被害あった中でここだけがぽつんと完全なまま残った。

 ウェンシーが戻るころ、路上で牧羊の老人たちに遇った。彼らは地面に座り込んで嘆き悲しんでいた。「私たちの羊や牛が全部流されてしまったよ!」

 「あんたたちは、アバ・ラマの所に法を求めに行く人たちを二度と襲わないことだよ。さもないと、また雹を降らせるからな!」とウェンシーは彼らに言った。

 家路の道すがら、ウェンシーは雹によって討ち殺された小鳥や山ネズミの死骸を多く見つけた。彼は不憫に思い、自分の衣服でその亡骸を包むと、それは包みいっぱいになった。彼はそれを背に担いで帰った。

 (続く)

(翻訳編集・武蔵)

転載 大紀元 https://www.epochtimes.jp/p/2021/04/71485.html

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