チベットの光 (30) 大きな堡塁【伝統文化】

参考写真 ( Raimond Klavins / unsplash )

ウェンシーがこの大きな堡塁の基礎を築くにあたって、師父の弟子が三人手伝いにやってきた。彼らは協力して大きな石を山の麓から山頂まで運んでくれたので、ウェンシーはこれらを建築の基盤にした。

 このとき、兄弟子たちが熱心に働いてくれたので、建築にあたってのウェンシーの心情は前にもまして軽いものだった。兄弟子たちが石を運んでくれたので、ウェんシーはもう命がけで一人で石を運ぶ必要もなく、そのためか背中の傷は徐々に癒えていった。

 時が過ぎ、この大きな堡塁は二階部分まで出来上がった。

 このとき師父がまたやってきた。師父はこの堡塁を見ると、その特別大きな石を指さして言った。「この石は、どこからもってきたのか?」

 「それは…」ウェンシーはびくびくして言葉をなくしたが、最後には答えた。「それは、兄弟子たちが私を助けて運んできてくれたものです」

 「おまえは彼らが運んできた石を用いて工事をしてはならない!」「すぐにこの石を運び出せ!」と師父は言い放った。

 「しかし、先生はもう壊さないとおっしゃいました」と、ウェンシーが急いで答えた。

 「そのとおりだ。もう壊す必要はない。わたしはただ兄弟子たちが運んできた石を元の所に戻せといっているだけだ。私の弟子は修道者なのであって、おまえの雇い工ではない」

 しかたなく、ウェンシーはまた二階まで出来た堡塁の分解を始めた。基礎部分については、三人で協力してもってきた大きな石を彼一人で担ぎ、また山の麓まで運ばなくてはならなかった。三人で担ぐ石を一人で担ぐのは、前にもまして体力も時間も大きく消耗し、苦しみも前とは比較にならなかった。後代の人たちはこれらの石を「怪力の石」と呼ぶようになった。

 ウェンシーがほうほうのていで石を山の麓まで運んだ頃、師父がまたやってきてウェンシーに言った。「この石をまた山の上にもっていって基礎としろ!」

 「先生はこれらの石は使えないと言ったのではないですか?この石は使えないのではないですか?」とウェンシーが尋ねると、「これらのこの石が使えないというのではない。ほかの人が運んできた石を用いてはならず、他の人が処理した石ももってはいけないということだ」と師父が答えた。

 こうしてウェンシーはまたこの大きな石を背中に担いで山の上まで運んだ。点xun_齠冾ニすぎてゆき、ウェンシーがたゆまず努力したので、この建築物は七層の部分まで出来上がった。このとき、ウェンシーの腰の擦り傷は、ぽっかりと大きな穴のようになっていた。

 地元部族は、ウェンシーが禁断の地に大きな堡塁を築いていると聞き及び、一同に会して討論となった。「マルバは以前にも、この怪力の青年に建物を築かせては壊させていたが、今回は壊させないらしい。それならば、われわれ自身の手で壊してやろうじゃないか」

 こうして彼らは、ウェンシーが石を運ぶために麓に行っているのを見計らって、人馬を集めて堡塁に迫った。すると、予期しなかったことに、堡塁の直前にまで来ると進撃の足が停まった。彼らは怪訝な目つきで口を呆けてあけ、声をひそめて話し合った。「マルバはこんなにも多くの兵隊を集めていたのか」

 もともとマルバ師父が、彼らが来るのに前もって、将兵の化身を多く堡塁の内外に配置していたのであった。これらの将兵は気勢も高く、人々を震え上がらせたので、彼らも敢えて堡塁を攻撃せず、却ってマルバに赦しを請い、帰順するようになった。これ以降、彼らもマルバを仕える施主として仰ぐようになった。

 (続く)

(翻訳編集・武蔵)

転載 大紀元 https://www.epochtimes.jp/p/2021/03/70721.html

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