チベットの光 (21) 聖者到来の夢【伝統文化】

参考写真 ( 和 平 / unsplash )

ロンツァ地方に、「マルバ釈師(※)」という人がいた。彼はインドのノノバ尊者に直接師事し、大きく成道した尊者だった。ウェンシーは、「マルバ釈師」の名号を聞くと、心の中に言い知れぬ喜びが湧いてきて、涙が止まらなかった。彼の心の中に無限の歓喜と比類なき信仰心が生まれたのだ。

 彼は、マルバ尊者を師父とすることに決め、さっそくロンツァ地方へと足を運んだ。彼は道すがら、全身に喜びが満ち溢れ、心の中で、「ああ!早く先生に会いたい」と思った。

 ウェンシーがロンツァ地方に着く前日の晩、マルバ尊者は夢を見た。彼は、夢の中で師父のノノバ尊者に会い、師父から五色の玉石で彩られた金剛の杵を授かった。その杵は、突端が少し灰で汚れていたが、師父から、また別の柄杓を授けられ、その中は甘露でいっぱいであった。

 「その柄杓の甘露水で、金剛杵の灰を洗い落とすがよい。その後、その金剛杵を大旗竿の上に高く掲げよ。さすれば、大きな功徳が成就するだろう」と、ノノバ尊者は言った。

 マルバ尊者は、師父の言いつけに従い、その甘露水で金剛杵を洗ったのち、それを大旗竿の上に高く掲げた。すると、その刹那、金剛杵から大なる光明が放たれ、それは三千大千世界を遍く照らし、照らされないところはなく、光明があたるところは、人心が善くなり、六道の衆生の苦痛と危険な厄は即時に消失した。衆生は感激し、マルバ尊者とこの大旗竿に回向しないものはなく、皆が拝礼した。無量の諸仏がこの座にやってきて、大帳を開眼させた。

 マルバ尊者は夢から覚めると、興奮した。彼は、それが仏法を発揚し、衆生を普く救う人が世に到来することを知らせる夢であることを知っていた。また諸仏はこの人の面倒を自分に託したものであった…。

 彼が静かに思いを凝らしていると、妻が突然やってきた。ドアもノックせずに入ると、息せき切って言った。「先生、先生!私は昨日生々しい夢を見ました。ホントの夢です。どうかその意味が分かったら説明してください。北方の佛国浄土から、若い女の子が二人やってきて、その手には瑠璃色の宝塔が託されていましが、その表面が灰で多少汚れていました。彼女たちは、『ノノバ尊者からマルバ・ラマに授かれたこの宝塔を洗い、開眼させたのち、山頂に安置しなさい』と言いました。そこで、あなたがこの宝塔を洗って、開眼させた後、山頂に安置すると、その瞬間に、無量の光明が放出され、その光明の中からまた無数の宝塔が湧き出てきたのです」

 彼はこの話を聞いて、自分の夢と同じことを知らせる夢であることが分かり、内心非常に興奮したが、天機を漏らすには機が熟していないと思い、厳粛に言った。「人生は、うつろいやすい夢のようなもので、実体のないものです。いわんや夢ではないですか。かまう必要などありませんよ」。そして、「私は今日、畑に行って耕してきます。その準備を手伝ってください」と、妻に言いつけた。

 「あなたが畑を耕しに行く?」 妻は怪訝そうに聞き返した。「あなたのように名声のあるラマが畑に出るなんて、世間の物笑いなるから、やめてください!」

 「その他に、酒をひとビン用意してください。今日はちょっとした客人をもてなさないといけないから」。尊者は妻の話を聞かなかったかのように、酒を携えると鍬をもって畑に出た。

 彼は、畑に出ると、酒の瓶を地面に埋め、その上に帽子をかぶせた。そして、しばらく耕した後、どっかと腰を下ろし、休息しながら酒を煽った。

 (※)釈師…仏法の経典を翻訳する僧侶。

 (続く)
 

(翻訳編集・武蔵)

転載 大紀元 https://www.epochtimes.jp/p/2021/03/70327.html

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