チベットの光 (19) 偽の手紙【伝統文化】

参考写真 ( kychan / unsplash )

フェイマオタイは気功を長年修行していたので、軽功で駆けるかのように、普通の馬では追い付けなかった。彼はただ村民たちと遊ぶだけであって、村人が一生懸命に追い付こうとすると、彼は少し早く歩き、村民が遅く追いつくと、彼もゆっくりと歩いていた。村人たちが石つぶてを投げても、彼はそれより大きな石を投げ返した。しばらくして、彼は面白くなくなり、すっくと立ち上がって彼らに大声で叫んだ。

 「あなた方のうち、誰が私を殺そうとしているのか?私が即刻、呪法で呪い殺してやるぞ!今年の収穫が全部駄目になったのに、まだ分からないのか。もしあんたたちが俺の母親と妹によくしてやらないことが分かったら、村の入り口には鬼を放ち、村の出口には呪いのマントラを掛けてやり、人っ子一人いなくなるぞ。村は廃墟と化して、いきつく暇もなくなるぞ。分かったか?」

 村人たちはフェイマオタイの話を聞くと、恐ろしさで全身が震えた。彼らはお互いを見つめ、一言も出なかったが、押したり引いたりの末に、とぼとぼと一人また一人と帰っていった。

 ウェンシーはフェイマオタイと別れた後、母親に会いたいと思ったが、村人たちが彼を殺すのではないかと憂い、家を迂回して郷里に戻ることにした。

 彼は道すがら、獰猛な野犬に遭遇した。その野犬は、ウェンシーが凶事をなしたことを知っているかのようで、彼にとびかかって噛みつき、その太ももを傷だらけにしたので、彼は歩きにくくなった。

 彼は半日かかってやっとフェイマオタイとの約束の地に到達した。二人は一緒になってラマのところに戻った。ラマとの拝謁後、ラマはウェンシーにすぐに口を開いた。「よくやった。君たちは奇跡を起こした」

 「私たちは今戻ったばかりです。誰がこの件を教えたのですか?」ウェンシーは怪訝になって聞き返した。

 「護法の神が満月の時に教えてくれたのだ。このたびは、この神様に行ってもらったのだ」とラマが言い終えると、皆が喜んだ。

 このとき、ウェンシーの母は何をしていたのだろうか。彼女は、計を用いて行者に金銭を運ばせた後に思った。「ここの村人たちは、今どんな鬼畜なことを思いついているか知れたもんじゃない。何か奴らを震撼させるような手を打って、私たちを殺そうとしないようにしなくては」。こうして彼女はウェンシーの語気に似せて、偽の手紙をしたためた。手紙の中で、もし村人の中に母と妹に無礼なことをする者がいれば、母にその人の姓名を告げさせて、呪法でその九族まで呪い殺すとあった。もし村人全員がよくしてくれないのであれば、ウェンシーのところに引っ越してもらい一緒に住んでもらう。ウェンシーは現在では金持ちになり、その財産でよくしてもらえるというものだった。

 母は偽の手紙をしたためると、これに偽の印を押して封をし、妹のプダに言った。「昨日、行者がやってきてお兄さんの手紙をもってきたわよ」。妹はこれを聞くと、さっそく村人の所に行って、この事を伝えた。

 後に、母がこの手紙をもって叔父夫婦の友達に見せると、その内容は風聞であっというまに広まった。それ以降、村民たちは敢えて彼らを殺そうとしなくなったばかりか、ウェンシーの家の畑を返すようにと叔父夫婦に要求し始めた。

 (続く)

(翻訳編集・武蔵)

転載 大紀元 https://www.epochtimes.jp/p/2021/03/70323.html

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