世界を変えた蔡倫の紙-古代中国四大発明-

世界を変えた蔡倫の紙-古代中国四大発明-

世界を変えた製紙技術は蔡倫によって発明された。絵は乾隆時代にフランスの宣教師・蔣友仁によって描かれた水彩画『中国の製紙術』(パブリックドメイン)

後漢より前の時代、情報を記録するのには、木簡や竹簡が使われており、読書は力仕事で贅沢な事であった。

蔡倫は桂陽の出身で、先祖代々からの鍛冶屋の家に生まれた。

優秀な蔡倫は勤勉に学び、『論語』を熟読して『周礼』を研究していた。また、家族の影響で製錬、鋳造、麻の生産技術に興味を持ち、熱心に取り組んでいた。

蔡倫は、明帝の永平末頃(75年)から宦官として宮廷に登用され、当時15歳であった。

「尚方」を管理する

蔡倫は宮中の宮掖門(皇居の隣の宮殿)で勤め、数年を経た。

行儀の良い蔡倫は、進退をわきまえており、人々から信頼されていた。数年後、蔡倫は小黄門(宦官の役職で連絡係りのような役目)に昇進すると、次第に頭角を現し、朝政の人事などに精通していった。

イメージ図:明 仇英『漢の宮の春暁図』の一部(パブリックドメイン)

和帝が即位すると皇太后の推薦で中常侍に出世し、俸祿2千石の九卿大臣となり、政治の機密事項に関わるようになっていった。

記載によると、蔡倫は秀でた学才を備えており、誠実で慎み深く、何事にも懸命に尽くした。また、皇帝が犯した誤りに対し、率直に指摘して朝廷内の風紀を正した。

和帝永元九年には「尚方令」という役職を得、「尚方」は宮廷の調度品を製作する役所である。そこは全国の名匠が集まる場所であり、「尚方」で職務につくことは、その時代の技術者達の最高の名誉であった。「尚方宝剣」は「尚方」から来ており、国の最高権力を象徴している。

蔡倫は、剣などの武器類やさまざまな品物の製作監督と製造技術確立を任務とした。職人達と共に技術を研究し、彼の監督よって作られた尚方製品の技術は巧みで完璧であった。

なかでも有名なのは、蔡倫が設計した「蔡太僕の弩」と「龍亭九年の剣」という二つ兵器である。

「蔡侯紙」の発明

「尚方」を管理した後、蔡倫は製紙技術を改善し向上させた。彼は職人達に麻布、麻のぼろ、樹皮、漁網などの材料を選ばせた。切り刻んだ材料を洗い、灰汁で煮て繊維を取り出してから臼でひき、再び水の中で繊維を分散させ、枠に張った網で梳いた。網の上に薄く均一に残った繊維を、枠ごと乾燥させて剥がしたものを紙とした。

この方法で蔡倫達は繰り返し実験を行った。製造された紙は筆記感が良く、軽くて滑らか、そして長期間保存しても質は変わらず、変色もしなかった。

元興元年(105年)、蔡倫は樹皮・麻クズ・破れた魚網などの廃棄物の材料を用いて紙を製造し、これを和帝に献上した。蔡倫の作った紙は優秀であったため、「蔡侯の紙」と呼ばれ皆が使用した。蔡倫は114年に竜亭侯に封ぜられ、300戶の村を領地として授けられた。

乾隆時代にフランスの宣教師・蔣友仁によって描かれた水彩画『中国の製紙術』(パブリックドメイン)

宮廷内の政権争いに巻き込まれ、毒薬を飲んで自殺

蔡倫は小黄門という役職に就いた当時、後漢章帝の皇后・竇氏が権勢を振るっていた。竇氏には子供がいなかったが、宋貴人と梁貴人にはそれぞれ男子がいた。竇氏は梁貴人の子(劉肇、和帝)を養子にした。彼女は自ら育てた劉肇を天子に即位させるため、皇太子・劉肇の異母兄弟である劉慶の実母の宋貴人を罠にかけた。その結果、宋貴人が自殺し、劉慶は皇太子の座から追放された。

権力者の竇皇后から事件の事実調査を命じられた蔡倫は立場上、宋貴人に不利な結論を出さざるを得なかった。

章帝が崩御すると、和帝(劉肇)が即位し、和帝の第二皇后の鄧皇后も蔡倫を重用した。和帝が崩御すると、鄧太后が臨時に朝廷を取り仕切ったが、和帝の子はみな幼児期に死亡していた。やむなく和帝の異母兄・劉慶の子で13歳の劉祐が即位した。これが安帝である。鄧太后が崩御し、安帝の執政になると蔡倫は窮地に陥った。安帝は祖母であった宋貴人の怨みを晴らすことから着手したのである。しかし、宋貴人を陥れた本人はすでに世を去り、宋貴人に不利な調査報告書を作成した蔡倫が責任を問われることになった。

蔡倫は以前、竇皇后の指示に従い宋貴人を無実の罪に陥れた。安帝は蔡倫に自ら出頭するように詔を下した。蔡倫は獄に繋がれ辱めを受けることを恥じ、沐浴をして衣冠を整え、毒薬を飲んで自殺をした。

蔡倫はこのように悲惨な結末を迎えたが、「蔡侯の紙」は古代中国の四大発明の一つとして世界に広まった。紙がなければ、世界はどうなっていたのか。蔡倫の巨大な貢献は、米国の天体物理学者マイケル・ハート著作の「人類史に影響を与えた100人」の7番目にンクしたのである。

『天工開物』に書かれた紙の制作手順。竹を切りため池につけておく。叩いて皮を取り繊維状にした竹を煮る(パブリックドメイン)

『天工開物』に書かれた紙の制作手順。火であぶり紙を乾かす(パブリックドメイン)

『天工開物』に書かれた紙の制作手順。繊維状になった竹をすだれですく。すだれを裏返し、紙を積み重ねる(パブリックドメイン)

(訳: 脱党支援センター 東 光  編集:美空 光)

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